介護現場にいるからこそ伝えられる真実の声

ケアマネジャーを紡ぐ会 幹事長
有限会社アイ介護サービス ホームヘルパー
江戸川区議会議員(無所属3期目)
神尾昭央 (かみおてるあき)

障がい者支援の現場に携わり13年。
常に支援現場に身を置き、現場目線で政治に声を届け続けている。

生い立ち

 私は、静岡県田方郡土肥町(といまち)で生まれ育ちました。平成の大合併の際に近隣の4つの町が合併し、現在は静岡県伊豆市となっています。海と山に囲まれた自然豊かな街です。温泉、金山、海水浴場、ダイビングスポット、恋人岬など、観光地としても知られています。また、ここから駿河湾を挟んで見る富士は「海に浮かぶ富士」と言われ、全国の富士山ファンを魅了する撮影スポットです。今でも私は、土肥から見る富士山が日本一美しいと思っています。ただし、鉄道は敷設されておらず、バスが2時間に1本通るかどうかというド田舎です。

上京して障がい者支援の現場へ

 大学進学を機に上京して、それ以降、東京都江戸川区に住んでいます。私の初めての選挙は、28歳の時でした。2011年に東京都江戸川区議会議員選挙に立候補をしました。東日本大震災の直後の4月のことでした。2021票という多くの皆様からのご負託をいただきましたが、力及ばず当選することができませんでした。落選したことで、自分のやりたいこと、なぜ区議会議員を目指したのかを再度考える時間ができました。もともと障がい者と健常者を分断するような東京の社会構造に問題意識を持ったことがスタートでした。
 それなのに、実際の障がい者支援の現場も知らずに議員になるのはナンセンスだと感じたのです。そこで、江戸川区内にある有限会社アイ介護サービスという事業所に就職をしました。同社は、知的障がい者を中心に、居宅事業・デイサービス・グループホームなどを事業展開しています。江戸川区内には、同様の事業所は多数ありますが、私がこの事業所に決めたのは、スタッフと利用者さんの笑顔が支援の現場にあったからです。私の生まれ育った故郷に近いものを感じたのです。次の選挙に向けた活動を続けることも了承の上で雇用していただき、働きながらホームヘルパーの資格を取得しました。当時の私を快く受け入れてくれた会社に対しては、今でも感謝の気持ちでいっぱいです。おかげさまで、2回目の選挙で初当選させていただき、現在3期目を務めています。議員となってからもホームヘルパーとしての勤務は継続しています。自分の経験を通して、現役の介護職だからこそ届けることができる現場の声というものがあると確信しています。これまでも障がい者支援の現場が抱えている課題を行政に伝えて、制度を改善してきたケースがいくつもありました。今回は、その中でも象徴的な事例をご紹介いたします。

移動支援と居宅介護

 障がい者支援の現場で利用されるサービスには、いくつかの制度がありますが、その中でもホームヘルパーが多く利用する制度が「移動支援」と「居宅介護」です。
 移動支援とは、単独では外出が困難な障がい者が社会生活上必要不可欠な外出及び余暇活動や社会参加のため、外出時にヘルパーを派遣し、必要な移動の介助および外出に伴って必要となる介護を受けることができるサービスです。
 これに対して、居宅介護は、身体介護や家事援助など、障がい者が自宅での生活を充実させるために受けることができる介護サービスです。
 実際の障がい者支援の現場では、外出時の支援と自宅内での支援が必要になるケースがほとんどであり、両制度を併用することが多くあります。

個別支援計画と現実の支援の乖離

 実際に支援サービスを提供するにあたっては、個別支援計画書の作成が必要となります。その中には、提供するサービス内容や時間数についても記載をします。その結果、毎月のサービス提供は、移動支援が○○時間、居宅介護が△△時間と事前に設定されるのです。
 ところが、障がい特性によっては、その計画通りにいかないケースがあります。例えば、通所施設から自宅までの送迎を移動支援で提供し、帰宅後に居宅介護として食事や入浴サービスを提供することは典型的な支援ケースです。ここで、帰りながら買い物をして帰りたいとなった場合、普段であれば30分で自宅まで帰るところ、60分かかってしまいます。その分、自宅での居宅介護の時間が30分短くなります。また、別のケースでは、地域のおまつりに参加するため移動支援を利用する計画をしていたところ、当日の朝、利用者さんの気分が乗らず、なかなか出発できないということもありました。このような場合、当初の計画時間数とは異なる請求をすることになり、場合によっては不正請求と認定されることにもなりかねません。

支援現場にいると理由が説明できる

 過去に江戸川区内の事業所において、このような移動支援と居宅介護の時間数の付け替えが不正請求として指摘されたことがありました。しかし、この事例をみた際に、私自身の経験が役に立ちました。つまり、障がい特性によっては、やむを得ずに移動支援と居宅介護の時間を付け替えるケースがあることを知っていたのです。当該事業所にも事情を聴取した上で、行政にはケース毎の状況分析が必要なことを説明しました。その結果、いくつかの事例では、不正請求ではなかったと判断が見直されることになったのです。現職の介護職であるからこそ気付くことができた事例であったと思います。