働く人が両立支援に求めているものは、介護の答えではない

株式会社チェンジウェーブグループ CCO・CAIO
木場 猛

介護福祉士・介護支援専門員。企業支援100社以上、個別相談年間400名ほど対応。著書『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書』(日経BP)

従業員との相談でお客様はその従業員本人です。ゴールは親の介護問題を解決することではなく、その人がどう働き続けたいかに応えることです。

企業から両立支援の仕事を受けると、従業員と個別に相談する場面があります。そこで確認しておきたいことは、私たちのお客様は誰か、ということです。

当たり前ですが、答えは相談者本人です。
 にもかかわらず、介護出身の私はすぐにお年寄りを「本人」と扱って、介護の解決策をイメージしてしまいます。気を抜くとすぐに。


 働く人が産業ケアマネに期待しているのは、親に良い介護をする方法ではありません。

 介護があっても自分が望む暮らしを続けられるように、自分の課題を解決するヒントをもらうことです。

(もちろん、考えた上で、相談者の望みが「良い介護をしたい」の場合も数%ありますが。)

介護の専門知識は産業ケアマネの武器です。

ただ、目的を間違えると、相談者を苦しめる凶器になります。

その「侵襲性」を常に自覚していなければなりません。

昨年前半私が対応した相談のうち141件の相談事例を分類すると、実態が見えてきました。

相談者の平均年齢は47.9歳。50代が約半数を占め、男女比はほぼ50対50です。介護対象者の平均年齢は79.0歳で、実の親が9割以上を占めています。

居住距離では53%が遠距離介護です。ここ数年は、働きながら離れて暮らす親を支える「見えない介護」が中心課題になっています。同居はわずか6%です。遠距離なら「遠くて様子が見えない不安」、近距離・同居なら「24時間365日の拘束感と逃げ場のなさ」と、距離によって苦悩の質が変わります。また、自分以外に担い手がいない状況、老老介護、育児とのダブルケアなど、介護そのもの以外の環境が不安を大きくしているケースも多いです。

相談のタイミングを見ると、介護前(未認定)が46.1%、要介護1まで(始まった直後)が18.4%で、約65%が初期段階での相談です。

介護前の悩みのトップは「漠然とした不安(40.0%)」、次いで「認知症の疑い(36.9%)」「介護拒否・親の混乱(23.1%)」。

施設を探してほしい、良いサービスは無いかというような相談は職域では少数で、多くの方は「この先どうなるのか」「何をすればいいのか」という段階でやってきます。

つまり、相談者の多くは介護の問題を抱えているのではなく、見通しが持てない不安を抱えています。そこに施設やサービスのリストを並べても、求めているものとズレてしまいます。

この時期に必要なのは、今の状態を客観的に整理すること(根拠のある見立て)と、拒否する親にどう声をかけるかを一緒に考えること(現場経験からくるリアルな戦略)です。

 

介護中の悩みのトップは「在宅生活の限界・施設入居のタイミングがわからない(43.4%)」で、次いで「急変・退院時の体制作り(27.6%)」「家族の介護負担増(27.6%)」でした。

この段階では、精神的な励ましよりも物理的な解決策が求められます。

退院からの道筋などのパターンと、緊急時の代替手段など、具体的な選択肢があると示すことが支援の中心になります。

実際の相談例を2つ紹介します。

父83歳(要介護1)を母80歳が介護していて限界に近い、でも施設への踏み切りがつかない、という方です。
「家か施設か」という二択で考えていた相談者に、いくつかの代替手段を提案し、ショートステイを増やして母の負担を減らすことから始めるのは受け入れられそう、という言葉が出ました。
0か100かではなく「負担を分散する」という考え方で、膠着状態を脱することができました。

もう一人は、父89歳(要介護2)が骨折で老健に入所中、自宅改修は困難で退所期限が迫り絶望感があるという方です。

特養入居を目指しつつ、間に合わない場合に自宅や短期入所でしのぐ逃げ道をいくつか提示しました。
複数の「繋ぎ」の選択肢が見えたことで、絶望感が解消されたと言ってもらえました。

相談後、多くの方にこのような変化が起きます。

「何から手をつけていいかわからない」が「やるべき手順と優先順位が見えた」に。

「自分ひとりで抱え込んでいた」が「プロや制度に頼っていいとわかり、肩の荷が下りた」

「先行きが暗い」が「将来への備えができ、希望が持てた」に。

選択肢があると感じられることが、一番の救いになっているのではないかと思います。

何年か同じ企業で相談担当を続けているので、節目節目で確認のように相談に来てくれる方が増えてきました。

介護が始まる前に「何をしたらいいかわからない」と相談に来られた方の数年後。

親御さんが入院して、自宅に戻れるか施設に移るか判断がつかないタイミングで、治療の見通しが立つまで誰にも先が見えない、そういう時期です。

そんな節目に、また相談相手として選んでもらえるのはありがたいことだなと思います。

最初の1回で、介護の答えを教えるのではなく、「この先どうしたいか」を一緒に考えたことが、「またあの人と話したい」につながったのでしょう。

企業から委託を受けて従業員の相談に乗る時の私たちは、介護保険事業者ではありません。

その違いを意識して、ただ一人の人間として、目の前の相談者の望みを知ろうとする態度が、一番の専門性だと感じています。