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ケアマネジャーは誰の味方か?(4) ~なぜインフォーマルケアを入れても報酬を受け取れないのか~

ニッセイ基礎研究所主任研究員
三原岳

今コラムの第1回では、ケアマネジャー(介護支援専門員)を取り巻く環境を俯瞰する図を示しつつ、
本コラムの目的として、ケアマネジャーやケアマネジメントの「あるべき姿」から考える必要性を指摘しました。


第2回では介護保険発足時の議論に立ち返りつつ、「なぜケアマネジメントやケアマネジャーが
創設されたのか」という点を論じるとともに、「代理人」の機能が期待される点を論じました。

第3回では「代理人」の機能を深堀しつつ、多職種連携の必要性を指摘しました。

第4回はインフォーマルケアを巡る話題を取り上げたいと思います。

皆さんは法定研修を受けたり、分厚い研修用の書籍を読んだりしている際、
インフォーマルケアや地域づくりの重要性を繰り返し見聞きしているかもしれません。

例えば、2019年12月にまとめられた社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)がまとめた
「介護保険制度の見直しに関する意見」では、「高齢者が地域とのつながりを保ちながら生活を
継続していくためには、医療や介護に加え、インフォーマルサービスも含めた多様な生活支援が
包括的に提供されることが重要」とし、インフォーマルサービスも意識したケアマネジメントの推進が
言及されています。

さらに、2013年1月に公表された厚生労働省の「介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質向上と今後のあり方に関する検討会」中間とりまとめでは、
「インフォーマルケアや医療サービスの総合的な提供」が求められると指摘されています。

高齢者の生活を支える手段はフォーマルサービスだけではないので、
高齢者の暮らしを代理人として支える以上、この方向性自体、
必要なことですし、誰も文句を差し挟まないと思います。

しかし、少し変な印象も受けます。仮に筆者のように
偏屈な利用者が「デイサービスなんか行きたくない」
「だったら社会福祉協議会の無償ヘルパーか、自費ヘルパーを利用するので、
図書館や大学の生涯学習講座に通えるようにしてくれ」と要望したとします。

さらに、皆さんもケアマネジメントの専門職として、
「社会参加の意欲を削がないようにする上では、週3回ぐらい図書館、
大学の生涯学習講座に行けるようするのが望ましい」と判断し、
介護保険サービスを全く入れないケアプランを作成したと仮定します。

この場合、皆さんは居宅介護支援費の報酬を受け取れるでしょうか。
折角、筆者みたいに偏屈な人との面倒臭い対話を通じて情報を集め、
その人に合ったインフォーマルケアを調整したのに、一銭も受け取れない可能性が出てきます。

つまり、研修などで「インフォーマルケアを入れろ」と指導されても、
皆さんは居宅介護支援費を受け取れない構造になっています。
誤解を恐れずに言うと、インフォーマルケアを薦める行政や業界団体は皆さんに対し、
「ただ働きせよ」と言っているのに等しいことになります。

では、こんな変な構造になぜなったのでしょうか。
この問いを考える上では、介護保険制度の創設に遡る必要があります。

英国などで導入されていたケアマネジメントの考え方や方法が日本に「輸入」されたのは、
1990年代前半頃でした。当時は「ケースマネジメント」と呼ばれ、高齢者や障害者などの
生活を総合的に支援できるツールとして注目されました。

さらに、2000年度に介護保険がスタートする際、ケアマネジメントが制度化され、
サービスの一つに位置付けられました。
その結果、ケアマネジメントは「介護保険サービスを受けるための手続き」と理解されるようになり、
インフォーマルケアも含めて利用者の生活を支えるソーシャルワーク的な側面が意識されにくくなりました。

実際、介護保険制度の創設に関わったケアマネジメントの専門家は後年、

――といった理由の下、「介護保険制度にケアマネジメントを取り込むことに強い躊躇感」を持ったと記しています(白澤政和:「介護保険制度」のあるべき姿―利用者主体のケアマネジメントをもとに )。

つまり、ケアマネジメントは本来、インフォーマルケアも意識したソーシャルワークの要素を持っているのに、

居宅介護支援費という形で介護保険の枠内に押し込められた結果、
「介護保険サービスを受けるための手続き」と見なされるようになったわけです。

限度額の範囲内かチェックできたのはケアマネだけ

 もう一つ、ケアマネジメントが介護保険制度の枠内に押し込められた要因がありました。
それは区分支給限度基準額(以下、限度額)の問題です。

 皆さんはケアプランのサービス利用票別表で、調整したサービスが
限度額の範囲に入っているかどうかチェックしていると思いますが、
制度創設当時の技術では、この処理をケアマネジャーに委ねるしかありませんでした。

 この構造を少し詳しく説明します。
仮に利用者がAヘルパー事業所、Bデイサービス、C福祉用具レンタルという形で、
複数の異なる事業所を同時に利用した場合、
介護サービスの利用実績と介護報酬の請求はA、B、Cから別々に報告されることになります。

しかし、当時の技術では資料を紙でやり取りしていたため、
サービスの利用額が限度額の枠内に入っているかどうか、
市町村(実際には国民健康保険組合連合会)は把握する手段を持っていませんでした。

そこで、結果的にケアマネジャーが給付管理を担うことになりました。
その結果、介護保険に基づくフォーマルサービスを組み込まないと、
介護報酬を受け取れない構造になり、実質的に給付管理に報酬が付く制度になったわけです。
言い換えると、いくらインフォーマルケアを開発・発掘しても、
一銭の得にもならない仕組みになったと言えます。

 筆者自身、技術的な制約条件を考えると、当時の判断は止むを得なかったと思います。
さらに、制度が作られた当初、介護保険サービスが拡大しない可能性が危ぶまれていたことを踏まえると、
ケアマネジメントを介護保険の枠内に組み込んだことで、介護保険サービスやケアマネジメントを
国民に定着させることができた面もあると考えています。

 しかし、制度発足後の20年間で介護保険は国民に定着し、
当初の懸念は杞憂に終わりました。
さらに、現在の技術を使えば限度額のチェックも可能です。

このため、報酬や給付管理の在り方から見直すことで、インフォーマルケアだけのケアプランを作っても
報酬を受け取れる制度に切り替えることは理屈上、可能と思いますが、
厚生労働省の審議会におけるやり取りとか、業界団体の提案などを見ても、
こうした視点の議論は見受けられません。
むしろ、2024年度制度改正に向けて居宅介護支援費の有料化が再び取り沙汰されています。

 筆者としては、ケアマネジャーが介護保険の枠内に囚われず、
もっとソーシャルワークが可能となるような制度にして欲しいと思っていますが、
こうした声を現場の皆さんも上げて欲しいと期待しています。

第5回については、第4回で取り上げた制約条件を踏まえつつ、
インフォーマルケアとの関係性をもう少し詳しく論じたいと思います。

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