ケアマネジャーを紡ぐ会副会長
前田 麗子
ケアマネジャーを紡ぐ会副会長をやったから、今いろんな仕事に繋がってます。
独立から10年経った今思うこと
怖いままで、一歩踏み出す
今、この文章を読んでいるあなたにも、きっと一つくらい、
「やってみたいけれど、怖いこと」があるのではないでしょうか。
独立すること。
人を雇うこと。
新しい役割を引き受けること。
今までのやり方を、あえて変えること。
現場に長くいればいるほど、
「失敗しない方法」をたくさん知るようになります。
制度の正解。手続きの正解。支援の正解。
でも同時に、“自分の人生の正解”まで、探すようになってしまう。
10年前の私は、まさにその場所に立っていました。
2016年2月26日。
現在、私が経営している「あすなろケアプラン」を立ち上げるために、法人設立をした日です。
開業時の担当利用者は、ゼロ。
本当に、きれいなゼロでした。
独立前の職場では、当時35人ほどの利用者さんを担当していました。
正直に言えば、
「今の担当者さんを、そのまま独立後も引き継げたらいいな」
そんな、今思えばとても自分勝手な予定を、心のどこかで描いていました。
でも、前の職場の社長は、誰一人、利用者さんを連れていくことを許してくれませんでした。
結果、私は、0人からのスタートを切ることになりました。
ケアマネとしての経験は、まだ2年ほど。
管理者の経験もありません。
立ち上げたばかりの事業所に、果たして新規の依頼なんて来るのだろうか。
そもそも、地域の誰が、私の名前を覚えてくれているのだろうか。
正直に言うと、怖かったです。
夜、布団に入ると、頭の中で同じ言葉がぐるぐる回っていました。
「もし、1件も新規が来なかったら、どうしよう。」
でも、今、振り返って思うのは、
あの時、一番大きかった不安は、
“新規が来ないこと”そのものではなかったのだと思います。
本当に怖かったのは、周りの目でした。
「前田、独立したのに、やっぱりダメだったね。」
「やめておけばよかったのに。」
そんなふうに、誰かに思われること。
誰かに、笑われること。
その想像が、何よりも怖かったのだと思います。
人生を生きていると、
なるべく失敗したくないし、できることなら、恥をかきたくない。
だから、つい“正解”を探してしまいます。
ケアマネジャーという仕事をしていると、なおさらです。
制度に合っているか。
間違っていないか。
誰かに迷惑をかけていないか。
それは、とても大切な姿勢です。
私たちの仕事は、誰かの人生に直接関わる仕事だからこそ、
その慎重さは、誇るべきものだと思っています。
でも同時に、その姿勢が、
“自分の人生の選択”にまで、正解を求めすぎてしまうこともあります。
最初の一歩は、たいてい、うまく踏み出せません。
赤ん坊だって、あんよの時は、何度も転びます。
でも、転んだからといって、歩くことをやめません。
むしろ、立ち上がること自体を、どこか楽しんでいるようにも見えます。
よろけながら、手を伸ばしながら、
それでも、一歩ずつ、前に進んでいく。
大人になると、
転ぶことが、だんだん怖くなります。
失敗することが、評価や立場や、居場所と結びついてしまうからです。
でも、本当は、
一歩踏み出すこと自体に、ちゃんと価値があるのだと、
私はこの10年で、何度も思い知らされてきました。
この10年、私もたくさんの失敗をしてきました。
独立直後、利用者さんとの小さな約束を守れなかったこともあります。
準備が足りず、うまくいかなかった支援もありました。
「もっと、別のやり方があったんじゃないか」
そんなふうに、自分を責めた夜も、何度もありました。
でも、そのたびに、私は自分に問いかけてきました。
「次は、どうする?」
「次、同じ場面になったら、どう回避する?」
独立して、自分が社長になって、
自分の行動が、そのまま売り上げに、評価に、信頼に、直結する。
その現実は、正直、怖さもありましたが、
同時に、どこかで、面白さも感じていました。
“自分の選択の結果を、ちゃんと自分で引き受ける。”
その感覚が、私を、ほんの少しずつ、前に進ませてくれたのだと思います。
独立直後、最初の1件目の依頼が来た日のことは、
今でも、はっきりと覚えています。
自宅マンションの一室を事務所にしていた、あの小さな部屋。
机の上には、まだまっさらな書類のファイル。
鳴り慣れない固定電話の音に、少し慌てて受話器を取った、あの瞬間。
電話の向こうで、
「あすなろケアプランさんに、お願いしたいのですが。」
そう言われた時、胸の奥が、ぎゅっと熱くなりました。
誰かが、あすなろケアプランを思い出してくれた。
誰かが、「前田に頼んでみよう」と思ってくれた。
“ゼロ”だった場所に、
自分以外の誰かが、“1”を足してくれた。
電話を切ったあと、私は受話器を握りしめて、
思わず、小さく「やったー!」と声を出しました。
あの瞬間の、安堵と緊張と、少しの誇らしさは、
今でも、私の中に残っています。
その後、ケアマネジャーを紡ぐ会で、
本当にたくさんのケアマネジャーと出会いました。
独立している人。
事業所の中で、新しい役割を引き受けている人。
今いる場所で、なんとか踏ん張り続けている人。
会長の宮﨑直樹さんとも、ここで出会いました。
立場も、経験も、環境も、みんな違う。
でも、話を聞いていると、
共通していることが、ひとつありました。
それは、
“みんな、何かしらの怖さを抱えながら、
それでも、現場に立ち続けている”
ということです。
自信満々に見える人も、
経験豊富に見える人も、
心のどこかに、ちゃんと迷いを持っている。
そのことを知れただけで、
私は、少しだけ、楽になりました。
だから、今日は、これだけは伝えたいのです。
怖いと感じるのは、
あなたが、ちゃんと考えている証拠です。
無謀だから、怖いのではありません。
大切にしたいものがあるから、怖いのです。
利用者さんのこと。
家族のこと。
一緒に働く仲間のこと。
そして、自分自身の人生のこと。
それらを、本気で大切にしているからこそ、
簡単に、一歩が踏み出せないのだと思います。
完璧じゃなくていい。
自信がなくてもいい。
小さな一歩でいい。
その一歩が、
いつか、誰かの支えになります。
そしてきっと、
あなた自身の、次の景色につながっていきます。
怖いままでも、一歩踏み出す。
その行為そのものが、
もう、十分に価値のあることなのだと。
独立から10年が経った今、
私は、改めて、そう思っています。







