株式会社チェンジウェーブグループ CCO・CAIO
木場 猛
介護福祉士・介護支援専門員。企業支援100社以上、個別相談年間400名ほど対応。著書『仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書』(日経BP)。
企業向け両立支援のお客様は経営者や人事担当者です。従業員やその親ではありません。両立支援の重要性を上から説くのではなく、企業ごとの現実に合わせて負荷を下げ、できるところから一歩踏み出せるよう後押しすることが私たちの役割です。

産業ケアマネ向けに、同業者としてお話ししますね。
企業から両立支援の仕事を受けるとき、まず確認しておくことがあります。私たちのお客様は誰か、ということです。
答えは企業、つまり経営者や人事担当者です。
従業員の介護を支えることは手段であり、目的は企業の利益につなげること。であれば、考えるのは「介護をどうするか」ではなく、いかにして「社員が活躍し続けることができるか」です。この前提を絶対に忘れないように各工程で自覚的にチェックしなければ、もともと福祉思想が強い私たちは必ず間違えます。
企業の状況はさまざまです
企業の規模や業種、経営者の思想などで、仕事と介護の両立支援への対応状況は一様ではありません。弊社でお取引のある企業のお話を聞くと、対応状況はおおよそ2つの層に分かれます。
制度を整備し、研修を実施し、相談窓口も設けて情報提供まで行っている企業では、次のような悩みが出てきます。
在宅勤務が従業員の直接介護を助長させるのではないか、研修を実施したがこれでよかったのか基礎知識を付与したあとはどうするのか、相談窓口を設置したが利用が進んでいない、情報提供しているが届いている手ごたえがない。
弊社が運営する企業横断のコミュニティ「Excellent Care Company Club」には大手企業20社以上の人事担当者が参加していますが、そこで課題として多く挙げられたのも「実態が把握できていない」と「予備軍に情報が届いていない」の2点でした。
長く両立支援施策に力を入れている企業のご担当者でさえ、「何もないところに向かって、暗闇にボールを投げ続けているような気持ちです」とお話してくださいました。
一方で、まだそこまで手が回っていない企業も多くあります。法律で定められた制度や就業規則が十分に整っていない、問題は感じているが何から始めればいいかわからない、予算も担当者の余裕もない、という状態です。
やらなければいけないことは薄々わかっている。でも大変そう、お金もかかりそうという状況で「介護対策が重要です」という話をされても、負担が増えるだけに見えてしまいます。
重要性を理解してもらうことが目的ではありません
介護で仕事を辞める人が出るリスク、働きながら介護をしている人の実態、法改正で義務となった内容。
これらは公的なガイドラインや統計を確認すれば誰にでも分かります。中小企業でこれまで対応しきれていない場合でも、リスクは肌で感じているでしょう。
そこに「これだけ重要です」「このリスクがあります」という説明を重ねても、担当者の負担感が増すだけです。
「じゃあどう進めたらいいのか」「今できることは何なのか」「効果はあるのか」
この疑問に答えるのが支援者の役割で、実例や実績で根拠を示すのが私たちに必要な専門性ではないでしょうか。
極端な話、大事だと思っていなくても、効果が出ればいいのです。それが企業と従業員のためになります。
企業向け支援の実務で必要なのは、企業の意識を変えることではなく、行動を促し効果を測ることです。
まず、企業の現状を聞くこと
提供できる手段はだいたい研修か相談対応か施策運用補助でしょうし、細かいことは話を聞かないと分かりません。
最初にやることは、その企業が今どんな段階にあるかを確認することです。
制度は整っているか。担当者に余裕はあるか。予算はあるか。経営層はどこまで理解しているか。
こうした状況を把握せずに提案しても、担当者には「うちには難しい」と言われるだけです。すでに制度・研修・窓口を動かしている企業には、届け方や使われ方を一緒に見直す必要があります。
まだ手が回っていない企業には、まず一つでも動き出せる選択肢を示すことが先です。
介護でも、サービスありきのプラン提案をいきなり持っていったりしないでしょう。企業に対しても、ケアマネジメントプロセスだと思って関われば、慣れた話だと思います。
できるところから、少しずつ
私たちのお客様は企業です。従業員にとってどれだけよいことがあるかではなく、その企業がいまどんな状態にあるかを聞き取り、現実に合わせた一歩を一緒に考えることが出発点になります。
いきなりすべてをうまくやる必要はありません。何か一つ動き出して、取り組む姿勢を従業員に見せるだけでも、安心して働ける職場づくりにつながります。それができる企業は、どこにでもあります。
弊社の両立支援システム「LCAT」に蓄積された約43,000名のデータでは、現在介護中の社員は約8%ですが、予備軍まで含めると約55%が近い将来介護に直面する可能性があります。
企業担当者が社内で必要性を説明する際に使えるデータとして、こうした数字を手渡すことも一つの関わり方です。
企業から委託を受けた両立支援は、介護保険の仕組みの中で動くケアマネの仕事とは目的もルールも違います。
その違いを意識して動けることが、産業ケアマネの可能性だと感じています。







