政治と介護を紡ぐ会 オブザーバー
広瀬たけし

市議会議員を目指す福祉用具専門相談員。
さりげなく産業ケアマネ3級。
社会的処方は介護予防や介護離職防止に効果的。ケアマネは社会的処方の担い手になりうる。
みなさま、はじめまして。政治と介護を紡ぐ会オブザーバーの広瀬たけしと申します。
この度ご縁を頂きまして、私が介護予防の有効な方法論として大注目している「社会的処方(Social Prescribing)」についてお話したいと思います。
社会的処方とは?
近年、注目されはじめている社会的処方。NHKのニュースなどで取り上げられたこともあるため、聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
社会的処方とは、「薬ではなく、人と人とのつながりを処方することで健康になる仕組み」です。発祥の地イギリスではNHS(National Health Service;イギリスの公的医療保障制度)のメニューにも加えられており、健康やウェルビーイング改善に効果を上げています。
例えば、園芸活動や工芸活動、アート鑑賞などが「処方」され、健康状態等の改善に役立っているのです。これは、こうした活動を通じて「孤独・孤立状態」が改善した事によります。
孤独・孤立状態にあることは、肥満や喫煙よりも健康に悪く、アルツハイマー病のリスクも2倍以上になると言われています。
コロナ禍の折、デイサービスが休止したことでADLが低下した高齢者が多く見られ、デイサービスの有用性が再認識されました。あの時のADL低下は単純な廃用だけではなく、他者とのつながりが減少したことも影響していたと考えられます。
社会的処方をICFの図を用いて考えてみましょう。
普段、私たちがアセスメントする際、つい、以下の図1のような因果関係で物事を考えがちです。例えば、脳梗塞後遺症(健康状態)→左上下肢麻痺(心身機能・身体構造)→歩行が不安定(活動)→転倒予防のために歩行器(環境因子)が必要 といった具合です。

しかし、このモデルに基づいて援助を展開していると、なかなか参加にまで至らないということは皆さん経験されてきたことと思います。
社会的処方は、「参加」やそれを実現するための「環境因子」にアプローチすることにより、「心身機能」や「健康状態」が改善されるというモデルになります。(図2)

社会的処方と介護予防
私たちが日々接する高齢者は、現役世代と比べ社会とのつながりが少なくなりがちです。しかし、社会とのつながりがあることで介護予防効果があることが報告されています。
愛知県武豊町では、こうした人と人とのつながり、「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」に着目した通いの場の整備により、高い介護予防の実績を示しました。近年、厚労省が「通いの場の整備」と連呼するのはこうした背景があります。
さて、こうした「参加」の最もメジャーな形は「就労」です。定年退職と同時に抑うつ状態となってしまう燃え尽き症候群はソーシャルキャピタルの喪失によって引き起こされるという考え方もできます。
私は就労は最強の介護予防ソリューションであると考えています。働くということは非常に多くの能力を使用します。その業務に必要とされる能力はもちろん、出勤時間に間に合うように起き、身支度を整え、通勤する―これらの行為を細かく分解していけば、アセスメントシートの項目が網羅できてしまうのではないでしょうか。
東京都町田市などの一部のデイサービスでは、利用者が有償ボランティアという形で地元企業で軽作業を行い若干の報酬を得ているそうです。
こうした取り組みは、「就労できる高齢者が介護保険を利用してデイサービスに通うのはどうか」「デイサービスのプログラムとして有償ボランティアを行うのはいかがなものなのか」といった疑義が呈される場合もあり、自治体の理解と協力が不可欠です。
このような現場の先進的な取り組みは、前例がないという理由で行政には忌避されがちです。現場の熱い想いと自治体をつなぐ架け橋として、介護現場を熟知する政治家の存在が求められます。ここに私たち政治と介護を紡ぐ会が存在する価値があると思います。
社会的処方と産業ケアマネ
就労といえば、ケアマネジャーを紡ぐ会が取り組む産業ケアマネの分野にも、社会的処方の視点を持ち込むことでクライアントとの関わり方が重層的になりうると考えます。
働きながら家族の介護を行うビジネスケアラーは、その責任感から何もかも一人で抱え込み、孤独・孤立状態に陥ってしまうケースもあります。先述した通り、孤独・孤立状態はその人の健康やウェルビーイングにネガティブな影響を与えます。介護負担に加え、孤独・孤立によってもたらされる健康状態等の悪化は介護離職の可能性を高めてしまいます。
このような問題を目の当たりにしたとき、私たち介護職は、「介護のために用意された」社会資源を紹介しがちです。しかし、社会的処方の考え方を取り入れたとき、必ずしも介護とは関係のない趣味活動のサークルなどのほうが、より高い介護離職予防効果を期待できる場合もあることがわかります。
まとめ
介護・福祉業界では昔から社会的役割が大事だと言われています。
社会的処方やソーシャルキャピタルと言われると、なにか新しい概念のように聞こえますが、少し勉強してみると実は昔から言われていたことが体系化されたものだということがわかります。ということは、私たち介護・福祉職は社会的処方と親和性が高いということなのです。
「処方」と言われると医師が行うものとつい身構えてしまいがちですし、本家イギリスでは実際に医師からも処方されていますが、社会的処方は必ずしも医師だけのものではありません。日本では、医療者も非医療者も行う活動として展開されています。毎年3月に行われる社会的処方EXPOでは様々な職種の人が社会的処方に関する取り組みを発表しています。
私たち介護職は、利用者やその家族の生活に間近で関わり伴走することで、その孤独・孤立に気づきやすい立場にあります。その意味で、社会的処方の優れた担い手となるポテンシャルを秘めているのです。
みなさんもこのコラムをきっかけに社会的処方という概念を覚えていただいて、日々の活動に取り入れていただけると幸いです。







